歯科治療において、使用されている薬や患者が服用している薬によって治療の進行や回復に影響を与えることがあります。特に抗血栓薬、ビスフォスフォネート剤、フェニトイン、カルシウム拮抗薬などは、治療において慎重に扱う必要がある薬です。これらの薬の特徴と歯科治療への影響について、詳しく解説します。
1. 抗血栓薬 (血液をサラサラにする薬)
抗血栓薬(例: ワルファリン、アスピリン、NOACs(新しい経口抗凝固薬)など)は血液が固まりにくくすることで、血栓ができるのを防ぎます。これらは心臓病や脳梗塞の予防に用いられますが、歯科治療時に注意が必要です。
○歯科治療における影響
出血のリスク: 歯科治療、特に抜歯や歯周外科手術などでは出血が伴います。抗血栓薬を服用していると、通常よりも出血が止まりにくくなることがあります。
治療前に相談: 歯科治療を始める前に、抗血栓薬を服用していることを歯科医師に伝えましょう。場合によっては薬を中止したり、治療方法を調整したりすることがあります。
○対策
一部の抗血栓薬は治療前に中止することがありますが、医師の指示に従って行うことが重要です。中止せずに治療を行う場合は、出血を最小限に抑えるための処置を施すことがあります。
2. ビスフォスフォネート剤
ビスフォスフォネート剤(例: アレンドロン酸、リセドロン酸など)は、骨の吸収を抑える薬で、骨粗しょう症や骨転移を持つ癌患者の治療に使用されます。これらは長期間の服用により、顎骨に影響を与えることがあります。
○歯科治療における影響
顎骨壊死のリスク: ビスフォスフォネート剤を服用している患者は、顎骨壊死(ONJ:顎骨壊死)という重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。これは主に歯科治療や外科手術後に発生することがあります。
感染症のリスク: これらの薬は骨の修復能力を低下させるため、感染症が治りにくくなることがあります。
○対策
– ビスフォスフォネート剤を服用している患者は、歯科治療を受ける前に歯科医師としっかり相談することが重要です。治療後に顎骨壊死が発生しないよう、事前に口腔ケアを徹底し、手術を避ける場合もあります。
3. フェニトイン
フェニトインは抗てんかん薬で、てんかん発作の予防や治療に使われます。この薬は、歯科治療においても影響を及ぼす可能性があります。
○歯科治療における影響
歯肉過形成(歯茎の肥厚): フェニトインは長期間服用していると、歯茎が過剰に増殖することがあります。この状態を「歯肉過形成」といい、歯肉が腫れ、歯磨きが困難になることがあります。
口腔ケアの難しさ: 歯肉過形成が進行すると、歯磨きが難しくなり、歯周病や虫歯のリスクが増す可能性があります。
○対策
フェニトインを服用している場合、定期的に歯科で歯肉の状態をチェックしてもらい、早期に対応することが重要です。また、歯肉過形成を予防するために、歯科医師から適切なケア方法や処置を受けることが推奨されます。
4. カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬(例: アムロジピン、ニフェジピンなど)は、高血圧や狭心症の治療に使用されます。この薬は血圧を下げる作用がありますが、歯科治療にも影響を与えることがあります。
○歯科治療における影響
歯肉の腫れや出血: カルシウム拮抗薬は、歯肉の腫れや出血を引き起こすことがあります。これにより、歯磨きが困難になることや、治療後に歯肉のトラブルが発生する可能性があります。
口腔乾燥症: 口腔内の乾燥感が増すことがあり、これが虫歯や歯周病を悪化させることがあります。
○対策
歯肉の腫れがひどくなる前に、定期的な歯科受診を行い、早期に対応することが大切です。また、口腔内を乾燥させないよう、適切な水分摂取や口腔ケアを心がけましょう。
5.まとめ
歯科治療においては、使用している薬によって治療方法や回復に影響を与えることがあります。特に、抗血栓薬、ビスフォスフォネート剤、フェニトイン、カルシウム拮抗薬は注意が必要な薬です。これらの薬を服用している場合は、治療前に必ず歯科医師に伝え、適切な対応を受けることが重要です。薬の影響を最小限に抑えるために、患者自身も口腔ケアを徹底し、定期的に歯科医院を訪れることをおすすめします。
宇治市 中村歯科医院院長 歯周病学会専門医 中村航也

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